日本糖尿病協会

最新のお知らせ

メトホルミンの適正使用に関するRecommendation

Last Update:2020年3月18日

2012年2月1日 第一版
2014年3月28日 改訂
2016年5月12日 改訂
2019年8月5日 改訂
2020年3月18日 改訂

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我が国のビグアナイド薬の投与患者において、諸外国と比べて必ずしも頻度は高くはないものの乳酸アシドーシスが報告されている。乳酸アシドーシスは、しばしば予後不良で、死亡例も報告されており、迅速かつ適切な治療を必要とする。ビグアナイド薬の投与患者における乳酸アシドーシス症例を検討したところ、以下の特徴が認められた。すでに各剤の添付文書において禁忌や慎重投与となっている事項に違反した例がほとんどであり、添付文書遵守の徹底がまず必要と考えられた。尚、投与量や投与期間に一定の傾向は認められず、低用量の症例や、投与開始直後あるいは数年後に発現した症例も報告されていた。このような現状に鑑み、乳酸アシドーシスの発現を避けるためには、投与にあたり患者の病態・生活習慣などから薬剤の効果や副作用の危険性を勘案した上で適切な患者を選択し、患者に対して服薬や生活習慣などの指導を十分に行うことが重要である。以上のような観点から、2012年2月1日に「ビグアナイド薬の適正使用に関する委員会」からRecommendationを行った。その一部を2014年3月28日に改訂した。
その後、本邦で使用されているビグアナイド薬のほとんどがメトホルミンであることや、内外の安全性に関するエビデンスについても、メトホルミンに関するものがほとんどであることに鑑み、本Recommendationも「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」とすることとしたが、多くの留意点はメトホルミンの配合薬や他のビグアナイド薬についても該当するものと考えられる。特に、2016年4月8日にFDAからDrug Safety Communicationが出されたことを受け、従来のクレアチニンによる腎機能評価から推定糸球体濾過量eGFRによる評価へ変更することを主にしたアップデートを2016年5月12日に行った。
我が国においても2019年6月18日に厚生労働省医薬・生活衛生局安全対策課より、メトホルミンに関して腎機能と使用要件等を主な変更内容とする「使用上の注意」改訂が必要である旨が発せられ、メトホルミン製剤およびメトホルミン成分を含有する配合錠の添付文書改訂が行われた。
改訂された添付文書の内容は、2016年5月12日改訂の本Recommendationと大きく異なるものではないが、いくつかの注意点等について2019年8月5日に記載をアップデートした。
2020年3月18日の改訂においては、ヨード造影剤投与時のメトホルミンの扱いについての記載を改訂した。

乳酸アシドーシスの症例に多く認められた特徴

1) 腎機能障害患者(透析患者を含む)
2) 脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取など、患者への注意・指導が必要な状態
3) 心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者
4) 高齢者

高齢者だけでなく、比較的若年者でも少量投与でも、上記の特徴を有する患者で、乳酸アシドーシスの発現が報告されていることに注意。

〔Recommendation〕

まず、経口摂取が困難な患者や寝たきりなど、全身状態が悪い患者には投与しないことを大前提とし、以下の事項に留意する。

1) 腎機能障害患者(透析患者を含む)

メトホルミン製剤の使用に当たっては、腎機能を推定糸球体濾過量eGFRで評価し、eGFRが30(mL/分/1.73m2)未満の高度腎機能障害の患者ではメトホルミンは禁忌である。eGFRが30~45の場合にはリスクとベネフィットを勘案して慎重投与とする。また、eGFRが30~60の中等度腎機能障害の患者では、腎機能に応じて添付文書上の最高用量の目安を参考に用量を調整する。eGFRが30~60の患者では、ヨード造影剤投与後48時間はメトホルミンを再開せず、腎機能の悪化が懸念される場合にはeGFRを測定し腎機能を評価した後に再開する。ただし、脱水、ショック、急性心筋梗塞、重症感染症の場合などやヨード造影剤の併用なども含め、eGFRは急激に低下することがあるので適切なタイミングで腎機能をチェックする。さらに、腎血流量を低下させる薬剤(レニン・アンジオテンシン系の阻害薬、利尿薬、NSAIDsなど)の使用などにより腎機能が急激に悪化する場合があるので、メトホルミン製剤使用中の患者では腎機能を頻回にチェックする。

2) 脱水、シックデイ、過度のアルコール摂取などの患者への注意・指導が必要な状態

全てのメトホルミンは、脱水、脱水状態が懸念される下痢、嘔吐等の胃腸障害のある患者、過度のアルコール摂取の患者で禁忌である。利尿作用を有する薬剤(利尿剤、SGLT2阻害薬等)との併用時には、特に脱水に対する注意が必要である。
以下の内容について患者に注意・指導する。また患者の状況に応じて家族にも指導する。
シックデイの際には脱水が懸念されるので、いったん服薬を中止し、主治医に相談する。脱水を予防するために日常生活において適度な水分摂取を心がける。アルコール摂取については、過度の摂取患者では禁忌であり、摂取を適量にとどめるよう指導する。また、肝疾患などのある症例では禁酒させる。

3) 心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害などの患者

全てのメトホルミンは、高度の心血管・肺機能障害(ショック、急性うっ血性心不全、急性心筋梗塞、呼吸不全、肺塞栓など低酸素血症を伴いやすい状態)、外科手術(飲食物の摂取が制限されない小手術を除く)前後の患者には禁忌である。また、メトホルミンでは軽度~中等度の肝機能障害には慎重投与である。

4) 高齢者

メトホルミンは高齢者では慎重に投与する。高齢者では腎機能、肝機能の予備能が低下していることが多いことから定期的に腎機能(eGFR)、肝機能や患者の状態を慎重に観察し、投与量の調節や投与の継続を検討しなければならない。特に75歳以上の高齢者ではより慎重な判断が必要である。

「ビグアナイド薬の適正使用に関する委員会」

京都大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌・栄養内科学 稲垣暢也 
国立国際医療研究センター 糖尿病研究センター 植木浩二郎
川崎医科大学・川崎医療福祉大学 加来浩平 
東京大学大学院医学系研究科 糖尿病・代謝内科 門脇孝 
関西電力病院 清野裕 
旭川医科大学 内科学講座 病態代謝内科学分野 羽田勝計

以上

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