わが国の高齢化率は上昇を続けており、65歳以上は全人口の30%、75歳以上は15%になっています。高齢者の増加に比例して在宅医療を受けている人の数も増加を続けています。
在宅医療を受けている超高齢の糖尿病患者さんの支援をおこなっているなかで、「こんな時、どうしたらいいの?」、「今までに経験したことない、困ったなあ」などの経験はありませんか。そのような場面で参考にしていただくためのQ&Aを作成いたしました。
糖尿病の状態・経過は人それぞれです。本Q&Aでは解決できないような事例に遭遇した際は、下記フォームよりお気軽にご質問をお寄せください。
1.食事療法について
かつては「食事療法=カロリー制限食」でした。糖尿病患者さん自身も「糖尿病になると〇〇を食べてはいけない」と考える人が多くいました。しかし昨今では食事療法を「制限」と捉えることはなく、ましてや糖尿病だからといって食べてはいけないものはないのが常識となっています。
一方、寿命が延びたわが国では糖尿病患者さんの過半数が高齢者というのが現状です。高齢者、とくに超高齢者では糖尿病患者さんでも、むしろ「なるべく食べていただくように勧める」方向になってきています。高齢者のやせはフレイルやサルコペニアにつながることから、とくに良質のたんぱく質や脂質を積極的に摂取することが推奨されています。
このQ&Aでは、どのようにすれば糖尿病の高齢者の方が体重を維持し、栄養状態を良好に保てるか、いかに食事を楽しんでいただくことができるか、に主眼を置いた回答内容になっています。
- Q1-1.食べ物の飲み込みが悪い人の栄養補給になにか良い工夫はありますか?
- A1-1.ゼリー状・液状の栄養補助食品を検討してはどうでしょうか。
まずは、飲み込みが悪くなった原因を考えることが重要です。むせることが多いのか、口腔内の溜め込みが多いのか調べてください。
その上で・・・ドラッグストアの店頭やインターネットの通信販売などで、さまざまな栄養補助食品が販売されています。その人の飲み込み能力(嚥下機能)の状態に合わせて、ゼリー状のものを選ぶか、液状のものを選ぶかを決めてください。飲み込みの悪い方には、まずは栄養をしっかり摂っていただくことが重要です。若干血糖値が上がるかもしれませんが、この場合はあまり血糖値のことは気にせずに、安全にしっかりと飲み込むことができるものを選んでください。 - Q1-2.野菜を食べない人はどうしたらよいでしょうか、代わりの食べ物はありますか?
- A1-2.食物繊維が多い食品(きのこ、海藻など)で代用を検討してはいかがでしょうか。
野菜に多く含まれる食物繊維には、食後高血糖を抑える効果だけでなく便秘の予防や改善効果があります。一方で野菜ジュースは意外と食物繊維量が少なく糖質量が多いため野菜の代わりにはなりません。
食後高血糖を抑えるという目的で、食事の最初に食物繊維をとりたい場合は、野菜ではなく、他の食物繊維が多い食品(きのこ、海藻など)を摂取するという方法があります。しかし、食物繊維の多い食品を最初に食べるとご飯やおかずが食べきれないという方は、おかずを最初に食べることをお勧めします。 - Q1-3.小食で1回の食事量が少ない人に、栄養補助食品を利用しても良いでしょうか?
- A1-3.良いと思います。ただし、栄養素の偏りに注意しましょう。
食事から十分な栄養を摂取できない場合は、補助として栄養補助食品を利用することができます。とくに1回の食事量が少ない方や、体重減少が気になる方にとっては有用な選択肢です。ただし、健康状態や不足していると思われる栄養素を考慮して、最適な栄養補助食品およびその摂取量を決定することが重要です。医師や管理栄養士に相談してみてください。栄養補助食品を利用する場合は特定の栄養素のみを過剰に摂取することにならないように注意しましょう。 - Q1-4.お菓子や果物などの甘いものは好きで食べるが、普通の食事には見向きもしない患者さんに1日三食をきちんと食べてもらう支援方法はありますか?
- A1-4.ご本人の思いを理解した上で説明・提案をしてみてはいかがでしょうか。
まず、なぜそのような食事をするのか把握することが重要です。楽しみのため、歯が悪いため、ストレス発散のため、知識の不足、調理が大変なためなどいろいろな理由があると思います。患者さんの状況と思いを理解すると解決につながる場合もあります。
その上で、摂取する栄養素が偏ると、筋肉量の低下、血糖値の上昇、歯周病の悪化、骨粗鬆症の増悪などにつながることを説明しましょう。簡単にできる食事のレシピなどもお渡ししてください。宅配食サービスなども必要に応じて活用するとよいでしょう。
甘いものをやみくもに禁止するのではなく、主食、主菜、副菜のそろった食事の重要性を説明し、ご本人が好きな甘いもの(果物や菓子類)は食後に少量とるなどの提案をお勧めします。 - Q1-5.スーパーの弁当やお惣菜などが中心の食事ですが問題ないのでしょうか?
- A1-5.弁当やお惣菜の内容・栄養の配分を調べてみて、なるべく望ましい形に近づけられるのであればよいと思います。
店屋物でも内容を検討して栄養バランスに気を配ることはできるはずです。店屋物を選ぶ際には一緒に手伝って、足りないものをサイドメニューで補うアドバイスをしましょう。また、毎日同じものでなくバラエティに富んだメニューを選ぶよう工夫しましょう。
自分で食べたいものを選ぶ喜びもあると思います。最近はコンビニでも一人用のパックや、食塩の摂りすぎに配慮した惣菜もあるので、それらを選んでもらうように説明しましょう。 - Q1-6.高齢世帯で調理が困難な夫婦へのアドバイスはどのような方法がありますか?
- A1-6.外食や中食のメニューを一緒に考えてみるのがよいでしょう。宅配食やデイケアなどの社会資源の活用も検討してみましょう。
自炊ができない場合は、外食や中食のメニューを一緒に考えてみるのがよいでしょう。バランスの良いメニューを言葉で伝えるだけでなく、写真や絵などを使いながら説明するとわかりやすいです。購入する際には、食品の栄養表示を見る習慣をつけてもらうことも食事の栄養バランスを考える上では大切です。
糖質や食塩が過剰になりやすいので注意が必要ですが、最近はレトルト食品や冷凍食品など種類が豊富にあります。食品の栄養表示を見ながら主食、副食のバランスを考え、食事摂取してもらうよう説明するのがよいでしょう。宅配食には糖尿病食やたんぱく質や食塩の制限食もあります。 - Q1-7.おなかが空いて困ると訴える人へのアドバイスで、成功した例はありますか?
- A1-7.以下にいくつかの例を示します。
野菜、キノコ類、ナッツ類を利用して腹持ちのいい間食を何種類か提案し、それらを作り置きして冷蔵し、毎日同じもので飽きないように日替わりにするとよいでしょう。
食事をよく噛んでゆっくり食べることと主菜(肉や魚、卵、大豆製品などのおかず)、副菜(野菜の煮物やお浸し、サラダなどのおかず)から先に食べ最後に主食(ご飯・麺・パン)を食べることを勧めてみましょう。糖質主体の丼物や麺類は食べ過ぎることが多いため回数を減らす工夫をしましょう。炭酸水、こんにゃく製品、茎わかめ、のり、ところてんなどを常備し、空腹感があれば摂取することを勧めます。 - Q1-8.発熱して食欲がない日の食事はどうしたらよいですか?
- A1-8. 食事が摂れそうであれば、お粥やうどん、野菜スープ、ゼリーなど消化の良い炭水化物を摂ってください。食事・水分を摂れない場合は医療機関に相談してください。
シックデイの時は、食事量が減ってエネルギー摂取不足になりやすく、摂取する糖質量が少ないと内服している血糖降下薬によっては低血糖になることもあります。逆に脱水になったり薬の中断によって著しい高血糖やケトアシドーシスを起こす危険もあるため、食事をいつも通り摂れない場合は早めに医師に相談しましょう。
なんとか食事が食べられそうであれば、お粥やうどん、野菜スープ、ゼリーなど消化の良い炭水化物を摂ることが大切です。また、発熱時は脱水や高血糖になりやすいので1日1000~1500mLを目安に水分補給を行ってください。脱水症状のサインとして皮膚をつまんでみて、つままれた形から3秒戻らないことや舌が乾いていることが挙げられます。このような症状が出ていて、水分が摂取できない場合はただちに医療機関に相談して下さい。 - Q1-9.腎機能の悪い人への減塩やカリウム制限はどうすればいいですか?
- A1-9.摂取量・回数を減らすのが望ましいですが、厳格になりすぎないよう注意しましょう。
<減塩について>はじめから「塩分制限!」と強要するような言い方をせず、「しょっぱいものは控えめに」と柔らかめにいきましょう。減塩が患者さんのストレスにならないように、まず患者さんの食事の“好み”を確かめてみるとよいでしょう。麺類や汁物、魚の干物、はんぺんなどの練りもの、梅干しは食塩が多い代表食品です。また、カップ麺や寿司にも多くの食塩が含まれています。
減塩の工夫としては、上記のような食べ物を献立の中から減らす、1回に食べる量を少なくする(少なく出す)、汁は残すようにするのも効果的です。JADECの「かきくけこ指導箋(あなたの腎臓を守る食事療法かきくけこ)」を参考にしてください。なお、減塩の塩は塩化ナトリウムの代わりに塩化カリウムを使用している場合が多いため、注意が必要です。
<カリウム制限について>
カリウム含有量の多い食品としては、生野菜や果物、いも、海藻類、ナッツ類、果汁や野菜のジュースなどが挙げられます。野菜類は茹でこぼしたり、水に晒すことでカリウムを減らすことができます。一部の降圧薬や利尿薬にはカリウム上昇に働くものがあるため、食事制限だけでカリウムの改善が得られない場合は主治医や薬剤師と相談してみましょう。また、魚や肉、卵なども摂りすぎるとカリウム過剰になりますが、高齢者ではサルコペニアやフレイルを予防するためにたんぱく質の摂取はある程度は必要です。腎機能の低下した方へのたんぱく質制限は個別に主治医と相談してください。
2.薬物療法について
高齢の糖尿病患者さんの介護がうまくいく、ということが、良好な血糖マネジメントを維持できている、という考え方になっていませんか?
介護の原点は、笑顔で元気に過ごせるための支援だと思います。ここでは、「介護が必要な糖尿病の高齢者が笑顔で元気に過ごせるための薬物療法」を考えていきたいと思います。血糖マネジメントをしっかり改善する方法というよりも、ほどほどの血糖値をなんとかうまく維持する方法を中心にご提案致します。すなわち、ベストの方法ではなく、ベターの提案や最低限これだけは守って欲しいという回答内容になっています。
- Q2-1. 低血糖の症状はどのようなものですか?とくに高齢者で気をつける点があれば教えてください。
- A2-1.下図を参考にしてください。
血糖値が下がるにつれて様々な症状が出現します。低血糖症状には個人差がありますが、おおよその目安を図1に示しました。
高齢者は低血糖症状が出現しにくいため、ご本人だけでなく周囲の人も気付かないことがあります。低血糖は認知症の進行を早める原因のひとつです。また、意識が遠のくことで転倒や骨折の危険も高まります。低血糖は絶対に避けなければなりません。
インスリン注射や低血糖が起こりうる薬を服用している患者さんでは、「いつもと比べてぼんやりしている」「受け答えが鈍い」「いつもの様子と異なる」など「なにかおかしい」と感じたら“低血糖が原因かも!”と思う習慣をつけてください。低血糖が起こったときの対処は、図2(フローチャート)を添付しました。
<図1>
<図2>
- Q2-2.主治医からインスリンの残量の確認を依頼されました。どのようにすればよいですか?
- A2-2. インスリンの未使用本数と、使用中のインスリンの残量を確認してください。
高齢者では、インスリン注射を忘れる、あるいは誤って多く打ってしまうことがあります。インスリン注射が正しく行われているかを確認するために、使っていないインスリンの本数や、使用中のインスリンの残量を確認することはとても重要です。図を参考に以下の項目を確認してください。
①家族または自宅に訪問する医療者の協力は必須。
②インスリンの未使用本数と、使用中のインスリンの残量を確認する。(期限切れがないかも確認する)
③保管場所が複数存在しないかの確認を行う。
④冷所保存されているかも確認する。(インスリンは冷凍してはいけません)
医療者とも情報を共有するために、確認シートなどを利用することをお勧めします。
<図>
3.フレイルについて
健康な状態から生活の活動に支援や介護が必要な状態に移行する間の状態を「フレイル」と呼んでいます。フレイルは心身が虚弱な状態ですが、トレーニングや生活環境の改善によって健康な状態に近づけることができます。そこで、在宅や施設で働く皆さんが糖尿病とフレイルのある患者さんに自信を持って対応できるように、フレイルに関するQ&Aを作成しました。糖尿病とフレイルのある患者さんが心身の健康を維持して快適な生活が継続できるような環境を作っていきたいと考えています。
是非、現場で働く皆さんに活用していただきご意見やご希望をお聞かせください。より使いやすい資材の作成にご協力をよろしくお願いいたします。
- Q3-1.フレイルとは何ですか? また、糖尿病との関連性を教えてください。
- A3-1.加齢とともに心身の機能が低下して、介護の一歩手前の段階を示す用語です。糖尿病においては、主に血糖マネジメントと関連します。
フレイルには、動きがゆっくりになったり不安定になったりする「身体的フレイル」、認知機能の低下やうつなどの症状が現れる「心理的・認知的フレイル」、独居や経済困窮などの「社会的フレイル」があります(図1)。フレイルは周囲の人たちの支援や環境を変えることで心身機能を取り戻せる段階です。
とくに筋肉の萎縮によって日常生活が困難になると活動量が減少し、糖の消費が円滑に行われず血糖マネジメントが難しくなります(図2)。また、血糖マネジメントの乱れによって筋肉が痩せたり、疲れやすくなったりして悪循環に陥ります。その状態が続くと転倒や外傷をきっかけに身体に障害を生じて、要介護状態に移行して生活の質が著しく低下してしまいます。
<図1>
<図2>
- Q3-2.糖尿病患者さんで注意すべきフレイルの兆候を教えてください。
- A3-2.下図に判断基準を示します。
フレイルの一般的判断基準を表1に示しました。また、プレフレイル(フレイルの前段階)として咀嚼・嚥下・滑舌などの口腔機能が低下するオーラルフレイルがあります。オーラルフレイルとは、僅かなお口の機能の衰えのことです。オーラルフレイルの一般的判断基準を表2に示しました。日常生活活動を観察し変化に早期に気づくことが大切です。
とくに糖尿病患者さんでは、血糖マネジメントの乱れによっても筋肉が痩せてきたり、疲れやすくなったりして、フレイルの進行を助長します。そのまま放置すると運動機能も口腔機能も低下して日常生活の動作が困難になりますので、早期に見つけて支援することが望まれます。
<表1>
<表2>
- Q3-3.身体的フレイルを防ぐための運動療法はどのようにしたらよいでしょう。
- A3-3.日常の生活自体が運動療法であると考えて下さい。
在宅医療中の方は、体操や長時間のウォーキングなどは困難なことが多く、また可能だとしても負担に感じて気が重く、とてもできないと感じるようです。
起きて座る、立ち上がる、歩くなど身体を動かす日常の生活自体が運動療法と考えて下さい。家の中で動くことができる方は、掃除や洗濯など日常の活動で筋肉が働き、フレイル予防につながります。
活動する際は安全対策が大切ですので、不安定な側に付き添って散歩したり、杖や歩行車などの歩行補助具を使用してください。対象となる方にやってあげるのではなく、できることを見つけてご本人が主体的に行えるような支援が効果的です。
- Q3-4.オーラルフレイルと糖尿病の関連性を教えて下さい。
- A3-4.糖尿病、歯周病、加齢、活動量減少と口腔機能の関係を下図に示します。
口腔機能と血糖値の変化は密接に関係しています。
口腔内の衛生状態が不良のままであればう蝕(うしょく)*1)や歯肉炎*2)を生じて口腔内の炎症を招き、血糖値を上昇させます。また、残存歯が少ないことで咀嚼(そしゃく)*3)がしにくくなるため、柔らかい食品に偏って咀嚼回数が減ることも血糖値の上昇を招きます。
糖尿病治療中の人は特に口腔内の観察を行い、衛生状態を良好に保つことが非常に大切です。
*1)う蝕(うしょく):むし歯のこと
*2)歯肉炎:悪化すると歯周病になる
*3)咀嚼(そしゃく):食べ物をよく噛んで味わうこと
- Q3-5.オーラルフレイルに対する支援方法を教えて下さい。
- A3-5.お口のチェックや日々の歯磨きが大切です。
オーラルフレイルは適切な対策を講じることで改善しますが、放置すると食欲や生活の意欲低下につながるので注意が必要です。虫歯や歯周病により歯の数が少なくなるとオーラルフレイルをきたすことがありますのでお口の中をチェックすることや日ごろからしっかりした歯磨きを行うことが重要です。
要介護者のお口の中に何らかの問題(歯が痛い、入れ歯が合わない、食べ物が噛めない、口腔ケアをして欲しいなど)が生じ、本人もしくはご家族が歯科治療を希望した場合、まずかかりつけ歯科医に相談して下さい。自力歩行が困難な場合は、歯科医院が車イスでの対応が可能かどうかの確認が必要です。来院する際に徒歩で行くことが出来ないときには、介護タクシーなどを利用する方法があります。
治療するにあたっては、基本的に少なくとも30分の座位保持が可能な環境が必要です。
また、訪問歯科診療を希望される場合はかかりつけ歯科医に相談して下さい。かかりつけ歯科医が往診を行っていない場合や、相談できる歯科医院がない場合には、担当のケアマネジャーもしくは地区の歯科医師会に相談して下さい。
4.シックデイについて
高齢者や高血糖を有する糖尿病患者さんは免疫力が低下し感染症にかかりやすい状態にあります。
糖尿病患者さんが感染症にかかり、発熱、下痢、嘔吐、食欲不振などのために十分な食事や水分がとれなくなると脱水を引き起こしやすく、また血糖値が急に高くなったり低くなったりします。このような状況をシックデイと言います。介護を必要とする高齢の糖尿病患者さんでは、シックデイの際に自分から症状を伝えることは難しく、対応が遅れると急速に病状が悪化し、昏睡をきたすことがあるため、医療スタッフが独自で対応できるか緊急性を要するため医療機関に直ちに紹介する方がよいか判断しなければなりません。現場では、医師や管理栄養士にすぐに相談できず、思いがけないアクシデントも起こり、判断に困ることが多々あります。本項目がその際の一助となるように願っております。
- Q4-1.どのような状態をシックデイというのでしょうか?
- A4-1.糖尿病患者さんが感染症などにかかり、下痢や嘔吐や発熱のため食欲がなくなり食事がとれなくなる状況をシックデイといいます。
シックデイの時には食事摂取をしなくても血糖値が上がりやすくなります。
とくに高齢者では水分摂取不足から脱水になりやすく、もともとインスリン分泌や腎機能が低下しているケースもあるため急性腎不全や高血糖を起こしやすく、場合よっては急に意識障害をきたす高血糖高浸透圧症候群、糖尿病ケトアシドーシスなどの重篤な病態を引き起こし、入院加療が必要になることもあります。そのためにシックデイへのきちんとした対処法を身に付けておく必要があります。 - Q4-2.シックデイを疑った時に何に注意して様子を見れば良いですか?
- A4-2.いつもと違う点がないか注視し、図に該当する場合は医療機関を受診してください。
シックデイの際には、食事が摂れない、全身倦怠感、体動困難や口渇感・多飲・多尿といった高血糖症状、体重減少、消化器症状(腹痛、嘔吐)などの症状が現れます。
一方、食事摂取が少ない際にスルホニル尿素薬・グリニド薬・インスリンを使用すると低血糖が出現し、冷汗・動悸(頻脈)・手の震え・意識障害などが起こることがあります。しかしながら、高齢者ではこれらの症状が現れにくいので、「普段と様子が異なる」、「いつもより何となく元気がない」、「受け答えが怪しくなる」といったサインを見逃さないようにしてください。
水分(1日1~1.5L)をできるだけ摂り、自己血糖測定を3〜4時間ごとに行うなど、病状をこまめに確認してください。下の表に該当する場合は直ちに医療機関を受診させましょう。
- Q4-3.患者さんの体調が悪くて食事摂取ができない状況です。私たちが患者さんに病院受診をすすめてもなかなか受診してもらえません。どうしたらよいでしょうか?
- A4-3.ご本人が一番信頼している人に協力を依頼してみましょう。
ご家族がいる方であればご家族の方に受診を進めてもらってください。独居の方であれば担当のケアマネジャーの方などご本人が一番信頼している人に受診を勧めてもらうのがよいでしょう。状態が悪く緊急性を要する場合は救急車を呼んでください。一方、ご本人の体調が回復すれば心理状態にも変化が生じることもあります。まずは、身体的苦痛を軽減してその後に心理面のサポートをしていき、受診の大切さを知ってもらえるようにするのがよいと思います。 - Q4-4.食事を吐いてしまう場合にはどうすれば良いですか?
- A4-4.水分補給を行いましょう。原因を確認し、食事に問題ない場合は医療機関に連絡してください。
嘔吐の原因について確認することが必要です。嘔吐には、食事の影響、使用薬剤の影響、併存疾患などの影響等が考えられます。食事が原因であれば、賞味期限切れなど衛生的に問題のあるものを摂取していないか。食べてすぐ横になる、早食い過食などの食行動に問題がなかったか等の確認をしてみましょう。食事や食行動に原因がない場合は、使用薬剤や併存疾患などの影響がないかもかかりつけ医等へ相談して下さい。また、脱水とならないよう、水分補給をしっかり行うようにしましょう。嘔吐が長引くと急速に病状が悪化し、高血糖昏睡をきたすことがあります。逆に食事を十分に摂れないと低血糖を招く恐れもあります。血糖自己測定器を持っている場合は、血糖値をこまめに測定し、通常の血糖値と大きく値が外れる場合は早めにかかりつけ医に連絡し、受診を促しましょう。
- Q4-5.シックデイ時はインスリン注射や服薬を中止したほうがよいのでしょうか?
- A4-5. まずはかかりつけ医に相談することをお勧めします。表に薬ごとの一例を示します。
シックデイ時は、吐き気や嘔吐・下痢の症状があり、食事摂取量も不安定な状態ですので、まずはかかりつけ医に相談することをお勧めします。スルホニル尿素薬・グリニド薬・インスリンは、食事が摂れない・食事量が少ない場合に低血糖を引き起こしやすく、とくに認知機能低下を伴う高齢者では低血糖がわからず、重症低血糖を起こすリスクが高いため食事量に合わせて薬の減量が必要です。また、SGLT2阻害薬やビグアナイド薬は脱水の可能性があれば中止し、GLP1受容体作動薬は消化器症状が強ければ中止します。しかしながら、1型糖尿病やインスリン分泌の低下した2型糖尿病ではインスリンを中止するとあっという間に高血糖となり、ケトアシドーシス性昏睡となることもあるので食事が摂れなくても持効型インスリンは通常の単位を打ちましょう。血糖測定器があれば3~4時間ごとに血糖測定を行い訪問看護師や医療機関に報告すると高血糖・低血糖のリスクが回避できます。かかりつけ医がクリニックである場合や訪問看護も介入していない場合で営業時間外の時はお近くの休日診療所や救急外来に問い合わせてください。場合によっては救急車を呼んで病院へ搬送する必要もあります。