1.食事について気をつけることはありますか?
避難所では十分な食事はないので、食事の不足ぶんは自分の体に蓄えた栄養分(グリコーゲン、脂肪など)で補っています。水が飲めれば急場はしのげます。その場合も体内ではインスリンが必要です。薬の種類と量の調節は後述します。 現場で軽作業をするときは、普段より食事量が少ないでしょうから、血糖降下剤を使用している人は「低血糖」に注意してください。
2.薬について気をつけることはありますか?
(1)αグルコシダーゼ阻害剤 ※( )内はジェネリック商品
商品名:ベイスン、グルコバイ、セイブル
(アカルボース、ジャミール、ベイスロース、ベグリラート、ベスタミオン、
ベルデリール、ベロム、ベンジックス、ボグシール、ボグリダーゼ、ボグリボース)
こちらの薬については、休薬しても急に病態が悪化する危険は少ないでしょう。
(あせらないで下さい。)
(2)ビグアナイド剤 ※( )内はジェネリック商品
商品名:グリコラン、メデット、メルビン、ジベトス、ジベトンS
(メトホルミン、ネルビス、メトリオンブホルミン)
こちらの薬については、休薬しても急に病態が悪化する危険は少ないでしょう。
(あせらないで下さい。)
(3)チアゾリジン誘導体(アクトス)
この薬は太った方や食べすぎ傾向のある方に使われることが多い薬です(インスリン抵抗性改善剤)。自分の膵臓からインスリンがある程度は分泌されていますので、このような方は、食事の量を減らすことにより、それだけで血糖値が改善することが多いので、食事療法を守ってください。
(4)SU剤(スルフォニールウレア剤) ※( )内はジェネリック商品
商品名:オイグルコン、ダオニール
(オペアミン、グリベンクラミド、セオグルミン、ダムゼール、
パミルコン、ブラトゲン、ベンクラート、マーグレイド)
商品名:アマリール、グリミクロン
(キョウワクロン、クラウナート、グリクラジド、
グリミラン、グルタミール、ダイアグリコ、ルイメニア)
商品名:ラスチノン
(ジアベトース、トルブタミド、ブタマイド)
これらの薬の多くは一日中(24時間)効いていますので、食事が摂れないときは、低血糖に注意してください。その日に摂れそうな食事量を予想して食事が半分なら薬も半量から1/3量に、というぐあいに大雑把に調節してください。病歴の長い方は自分の膵臓からのインスリン分泌が少ないと思われますので、薬を完全に休薬せざるを得ないときは「口の渇き」などの高血糖の症状に注意してください。一般的には太目の方はインスリンがある程度は分泌されています。高度の低血糖になると、避難所などでは砂糖やブドウ糖がないこともありますので、薬は若干少なめにしておいたほうがいいでしょう。
(5)速効型インスリン分泌促進剤
商品名:ファスティック、スターシス、グルファスト
これらの薬は早く効いて早く効果が消えます。約1時間半で効果が半分になります。食べた量に応じてその都度薬の量を加減してください。食事が半分なら薬は半分から1/3に。若干少なめに服用したほうが安全でしょう。
(6)DPP-4阻害薬
商品名:ジャヌビア、グラクティブ、エクア、ネシーナ、トラゼンタ、テネリア、
スイニ―、オングリザ、ザファテック、マリゼブ
食事ができる状況ならば、いつも通りに服用してください。この薬のみの方は低血糖の危険は少ないと考えられます。
(7)GLP-1受容体作動薬
商品名:ビクトーザ皮下注、バイエッタ皮下注、リキスミア皮下注、
ビデュリオン皮下注用、トルリシティ皮下注
食事ができる状況ならばいつも通りに注射をしてください。この薬のみの方は低血糖の危険は少ないと考えられます。
(8)インスリン
インスリンを使用されている方は、個人差が大きいため地域の病院や糖尿病学会などのホットラインでご質問ください。
(9)SGLT2阻害薬
商品名:スーグラ、フォシーガ、ルセフィ、デベルザ、アプルウェイ、
カナグル、ジャディアンス、
こちらの薬は、食事が摂れないときは、休薬しましょう。食べ物があっても水分摂取が十分にできない場合も、休薬しましょう。
3.避難所で軽作業をする上で注意する点は何ですか?
避難所で摂れる食事量と、服薬あるいはインスリンなどの注射薬と、作業量と精神的緊張などにより血糖値が変動します。糖尿病の治療薬を用いている人は、低血糖に対処する臨時の食べ物や飲み物があるか否か確認しましょう。食事量が足りなければ、いつもより血糖は下がるので、長く歩いたりハードな作業は避けて下さい。いつもの薬が無いか足りない人は、高血糖になる可能性がありますので、水分をできるだけ摂って下さい。
もちろん、もともと疲労が貯まっているので、怪我や気管支炎、肺炎などをおこさない範囲での作業に止めましょう。
4.睡眠で気をつけるべき点や、コツはありますか?
睡眠は疲労回復や精神安定に重要です。糖尿病の方では、不眠がつづくようなストレス環境は血糖値を上昇させます。避難所などでは、十分まとまった睡眠がとれないと思われますが、短時間の睡眠でも足していつもの睡眠時間となれば体は休めます。夜にまとめて寝ようと、昼寝るまいと頑張らないようにしましょう。
5.服装で気をつけたほうがよい点はありますか?
服装は選べる範囲が限られると思います。体温が下がらないような服装をし、作業をした後は汗で体が冷えないよう心がけましょう。足場が悪いところを歩くことになるので、靴を脱いだら足の怪我の有無や、胼胝や爪の変化などチェックしましょう。長靴では足が蒸れ水疱などできやすくなりますので、糖尿病の方は1日の終わりには足をチェックしましょう。
6.外傷などはどう対処すべきですか?
外傷も部位や程度により対処法はさまざまです。重ければ救急を要請することになるでしょう。軽傷から中等症であれば、自身のいる環境でできるだけの手当をします。糖尿病の方が今回のような環境下に置かれれば血糖コントロールは悪くなります。血糖コントロールが悪いと感染に弱くなりますので、小さな傷も遠慮せず医療者に診て貰いましょう。
7.長時間の移動で気をつけることは何ですか?
肉体的・精神的ストレスは血糖値を上昇させますので、長時間の移動時は水分と休憩をできるだけとりましょう。もちろん、長時間のバスや自家用車での移動でも“エコノミー症候群”の可能性はあります。座席でも足を動かして予防しましょう。水分をとることも大事です。
8.被災地での運動
9.被災地での栄養管理
山王病院 鈴木裕也
東京都済生会中央病院 渥美義仁
日本糖尿病協会