特集
多様化する生活習慣と糖尿病診療
糖尿病の治療の基本が生活習慣の是正にあることは間違いありません。しかし、生活習慣は患者さんごとに大きく異なっている上に、シフトワーカーなどのように社会的な環境で不規則にもなりがちです。そのため、模範的な生活習慣への是正が困難で実臨床上苦慮する症例も多く経験します。また、近年は医療従事者が新しく指導すべき生活習慣も増えてきました。
本特集では、私たち医療従事者が各糖尿病患者さんに行うべき生活指導について指導の根拠や具体的な方法、それによってどのように血糖変動が改善するのかなどについて解説いただき、新しい知見も加えた知識の整理を図りたいと思います。皆さんが患者さんに生活指導を行う際の一助になれば幸いです。
(新小倉病院 糖尿病センター 藤本良士)
連載「地域医療の現場から」
北九州市から発信する楽しくわかりやすい糖尿病療養指導のご紹介~生活習慣病啓発キャラクター「さとしお」と「オールディーズd e 運動療法」~
各地域、各医療機関において、医師や専門職による懸命な糖尿病療養指導が行われています。ただし、全ての患者さんに主体的かつ積極的に治療に取り組んでもらうことは極めて困難です。さらに、患者さんが治療自体が嫌になり自己中断することは、絶対避ける必要があります。生活習慣病の治療自体がとても大変でかつ長く続ける必要があるため、何かしら楽しむ要素が大切と考えてきた私は、「楽しくわかりやすい糖尿病療養指導」を創ることを目指してきました。
2014年以降、私が福岡県北九州市内の2つの病院で勤務する中で、患者さんに「楽しくわかりやすい糖尿病療養指導」を提供するためのツールを2つ作成しました。
2015年、製鉄記念八幡病院勤務時に作成した生活習慣病啓発キャラクター「さとしお」と、2016年、門司掖済会病院勤務時に始めた“古くて新しい運動療法”である「オールディーズde運動療法」につきまして、今回ご紹介します。
連載「糖尿病をめぐる診療科リレー」
心療内科医が診る糖尿病
私は心療内科医ですが、糖尿病診療もしています。「なぜ、心療内科医が?」と思う人もいるかもしれません。心療内科という言葉は最近ではよく聞くようになったと思いますが、全国の大学の82の医学部のうち、心療内科の独立した講座あるいは診療科を持っているのは9大学しかありません。心療内科の講義を受けたことがない人も多いと思います。
心療内科について正しく理解していただくために、まずは簡単に心療内科ではどのような考え方で病気を診て、何を目指すのか解説し、糖尿病に対してどのような見方をするのか解説します。そして、実際に病院で糖尿病診療にどのように関わっているか述べます。その上で、糖尿病療養指導の現場で、困難を伴う場合について心療内科医の立場から解説します。
「糖尿病診療update」
糖尿病患者さんと自動車運転
自動車運転は、意識障害を有する疾患や眠気や意識消失などの副作用を有する薬剤の影響により、重大な事故を引き起こす場合があります。糖尿病患者さんにおいては、適切に糖尿病治療薬が使用されていない場合や、慢性合併症による網膜症で視力障害を起こしていたり、糖尿病神経障害の影響で手足の感覚が鈍っていたりすると、自動車運転に影響が出る場合があります。また、薬剤の副作用による低血糖や大血管症の発症による血圧低下や不整脈により、重大な事故につながる可能性もあります。自動車事故を引き起こさないためには、定期的に受診し、適切な食事療法・運動療法・薬物療法で糖尿病のコントロールを行いつつ、自動車運転の継続や可否については、主治医と十分に相談していく必要があります。
「糖尿病診療update」
人生100年時代における運動療法の提言
世界一の長寿国である日本は、人生100年時代へ向かっています。しかし、平均寿命と健康寿命には、男性で9年、女性では13年の格差が生じており、健康寿命の延伸が叫ばれています。
糖尿病は罹患すると筋力低下や関節可動域制限など、筋肉や関節などの運動器に障害が生じ、バランス障害や歩行障害を引き起こすため、日常生活動作(Activities of Daily Living:ADL)や生活の質(Quality Of Life:QOL)をも低下させてしまう疾患であるとの認識が必要です。
また、昨今話題のサルコペニアやフレイル、ロコモティブシンドローム(以下、ロコモ)の予防や改善には、歩数や身体活動量が多いことや筋力・筋量の増加、身体機能の向上も必要とされ、意識的に筋肉を刺激できる運動療法は、糖尿病患者さんの高齢化や健康寿命延伸のためにも重要な役割を担っています。