特集
シックデイ
糖尿病の治療や療養指導は、個々の患者さんの日常生活と密接に関係しています。超高齢社会を迎え、複数の疾患を抱えた患者さんも多くなっています。予期せぬ体調不良や疾患によって、通常通りの食事を取れなくなる「シックデイ」にどう対処するかは、患者さんにとっては切実な問題です。糖尿病療養指導に携わる者として避けては通れないシックデイについて、事前の指導や、実際のシックデイに際しての指示を適切に行うためには、個々の患者さんの病態や使用している薬剤、現在の病状などを理解・把握することが求められます。本特集では、各職種から自験例や関連施設の症例を含めて、わかりやすく実践的なアドバイスをお願いしています。療養指導の参考となれば幸いです。
連載「地域医療の現場から」
連携は地域を救う!
糖21世紀になって糖尿病の治療は大きく変わりました。経口薬、注射薬など血糖降下薬のバリエーションが増えただけでなく、治療そのものに対する考え方が大きく変わったのです。
私が医者になった1980年代には、血糖値を正常に近づけることが患者さんのためになる筈だという「信念」に基づいて治療していました。HbA1cという指標が使われるようになり、DCCT、UKPDS、Kumamoto Studyなどの大規模臨床研究のエビデンス(科学的根拠)を得て、「信念」は「確証」となりました。
しかし21世紀以降、ACCORD試験などから低血糖が心血管疾患や認知症に悪影響を及ぼすことが分かってきました。さらにCGM(持続血糖モニター)による血糖の見える化によって血糖変動が問題視され、HbA1cのみに頼る治療の限界、特に高齢者では患者さん個々に対する治療目標設定の必要性が叫ばれるようになりました。
そのような中、食事・運動療法はますます重要となり、個々の患者さんへのきめ細かな支援を実現するためには、医師だけでなく多職種からなる医療スタッフとのチーム医療、スタッフ間の連携が必須となってきています。
連載「糖尿病をめぐる診療科リレー」
高齢者における糖尿病診療
超高齢社会を迎えている日本において、高齢者診療はADLならびにQOLを維持する上で重要な役割を果たしている。東京大学医学部附属病院老年病科は1962(昭和37)年、本邦で初の老年病学教室として誕生し、現在まで高齢者診療を行っている日本最古の老年医学講座である。当科は高齢者を対象とし、様々な病状の患者に対し、その原因として疾患がないかどうかを検査し、治療を行っている。また当科の物忘れ外来には、物忘れを心配する患者と家族が多く受診し、認知症に関する精査入院も行っている。
一方、日本において糖尿病は増加の一途をたどっている。厚生労働省2014年における患者調査によると、糖尿病の患者数は316万6000人となり、2011年調査の270万人から46万6000人増えて、過去最高となった。この2014年の患者調査では70歳以上を対象とすると男性の22.3%、女性の17.0%が糖尿病とみられている。表1に平成25年度の当科入院患者(平均年齢76.9歳)の主たる病名を示しているが、入院患者(400名)の26%(104名)が糖尿病である。このデータは糖尿病が高齢者診療において高血圧、骨粗鬆症、認知症などと同様にcommon diseasesの1つであることを示している。本稿では高齢者の糖尿病診療における特徴、留意点に関して言及したい。
連載⑰「糖尿病カンバセーション・マップ™」
地域でのマップを使った患者教育の実際と普及活動について
~糖尿病カンバセーション・マップ™ の自施設への導入と地域での活用に向けて~
糖尿病カンバセーション・マップ™ (以下、マップ)は、「境遇を同じくする患者同士の会話を通して、糖尿病に関して腑に落ちないと思ってきたことに合点がいく「a-ha体験」を経験することで、糖尿病と向き合う動機づけが得られる教材」1)として、現在、日本糖尿病協会(日糖協)により普及活動が行われています。自施設でも、2016年1月より糖尿病教室においてマップを使用開始しました。また、市民公開講座時の健康教室の一環として、血糖値が境界値から高値と表示された方や希望者を対象に、生活習慣病について語るコーナーにてマップを応用し好評な意見・結果を得ることができています。さらに、当地域の糖尿病療養指導士会が主催する「第25回“筑豊地区糖尿病の集い”―糖尿病と仲良く歩むいきいき人生―」においては、マップを使用した栄養指導を行うことを試みました。このように、マップを通じて疑問や会話を引き出し、患者のエンパワーメントへつなげる活動を続けることが重要であると考えます。今回、自施設での導入から活動までを紹介したいと思います。
連載「糖尿病診療update」
成長・発展するためのチームづくり
糖尿病患者は、生涯において患者自身がセルフケアを行うことが必要であり、患者の満足のいく生活や人生を支えるためには、医師、看護師、栄養士、薬剤師、理学療法士などで構成されるチームで支援していくことが必要である。
現在、多くの施設の糖尿病チームでは、患者中心の医療を目指し取り組んでいる現状にある。しかし、自分がそのチームの一員であると実感し、一体感を持った活動ができているだろうか? また、他のメンバーとの意見の食い違いなどでコンフリクト(葛藤)が生じ、緊張関係になった経験はないだろうか? そのようなチームでは本来の目的を果たすことはできない。真のチーム医療として患者を支えるためには、各々のチームメンバーがそれぞれの役割を明確にした主体的な取り組みや、メンバー間で良好な関係性を持って活動していくことが基盤にあることが重要である。さらにチームを統合し、調整していくことがチームを成長・発展させていくために必要である。
連載「糖尿病診療update」
糖尿病患者の骨折リスクと運動療法
糖尿病に起因した細小血管障害による慢性合併症は以前から広く知られている。また、近年では筋力や転倒リスクとの関連性についての研究報告が散見されるようになった。しかし、糖尿病による骨の異常については、まだ十分に認識されていないのが実情ではないだろうか。糖尿病においては1型・2型ともに、大腿骨近位部骨折リスクが非罹患者よりも上昇することがメタアナリシスによって示されている。骨折リスクに多大な影響を及ぼす骨強度は骨密度と骨質の2つの要因からなり、特に2型糖尿病においては後者との関連性が指摘されている。糖尿病の骨代謝には、血糖値をはじめ、酸化ストレスや終末糖化産物など数多くの因子が複雑にかかわっており、未解明な点が数多く残されている。
本稿では、糖尿病と骨折リスクならびに骨異常との関連性について概説するとともに、骨折予防を目的とした運動療法について、我々の研究成果を交えて紹介する。