日本糖尿病協会

月刊誌「さかえ」

月刊糖尿病ライフ さかえ

Last Update:2008年2月1日

さかえバックナンバー 2008年02月号 【 情報×眼力 】

似非(えせ)科学を見抜こう

科学という言葉から、皆さんはどのようなことを連想されるでしょうか。ノーベル賞を受賞された高名な科学者を、あるいは子供のころにアニメで見た心優しいロボットの少年を思い出すかもしれませんね。いずれにしても、我々を豊かな未来に導いてくれる、明るいイメージをもたれることでしょう。言うまでもなく、我々は生活のあらゆるところで、科学の恩恵を受けています。医学ももちろん科学の一分野であり、健康の維持や病気の治療についての判断は科学的な知識に基づいて行われるべきです。患者さんからみれば、科学的な根拠を添えてわかりやすい説明をしてくれることは、主治医を選ぶうえで重要なポイントになると思います。

同じことがテレビなどのマスコミを通じた健康情報にもあてはまります。テレビの健康情報番組を観ると、どれも趣向を凝らして科学的に効能を解説し、説得力ある構成に仕上がっています。健康食品や健康器具の通信販売も、また然りです。しかし、この一見科学的に解説されるところに、落とし穴が隠されていることが少なくありません。医学会や学術論文で扱われる「科学」のデータは、先入観を排除した公平な視点から膨大な検証を重ね、都合のいいことも悪いことも全てオープンにした上で、他の科学者の批判に耐えてやっと真実と認められます。これに対して、厳正な「科学」の手順をふまずに一見科学のようにみえるやり方で視聴者や読者を誘導する手法を、「似非科学」とか「にせ科学」と呼びます。この似非科学は様々なところに蔓延していますが、非常に巧妙で知らず知らずに騙されてしまうので、注意が必要です。

通信販売で血糖値を下げる効果があるかのように宣伝されている、富士山のバナジウム水を例にあげてみます。多くの宣伝では、1)バナジウムにインスリン感受性を改善して血糖値を下げる効果があるという論文がある、2)富士山系の天然水はバナジウムを豊富に含んでいる、3)だから富士山の天然水は糖尿病に効く、という三段論法が展開されています。しかし、「バナジウムで血糖値が下がった」という論文ではバナジウムを1日に30ミリグラム以上飲ませていました。これに対し、「富士山のバナジウム水」に含まれるバナジウムの量は、1リットル中に50~140マイクログラム程度ですので、論文の量を摂取するためには毎日200リットル以上飲まなければなりません。こういうやり方で、不都合なことは伏せて都合の良い部分だけをつなぎ合わせていくと、いかにも科学的に効果がありそうな、宣伝効果バツグンの広告を作ることが出来ます。

情報社会とうまく付き合うためには、このような「似非科学」を見抜く眼力も重要なのです。


かぎもとクリニック 鍵本伸二

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