日本糖尿病協会

TDJ活動レポート

かすみがうらマラソン ~1型糖尿病患者が楽しむマラソンのノウハウ~

Last Update:2009年4月1日

TDJ活動レポート 2009年04月

かすみがうらマラソン ~1型糖尿病患者が楽しむマラソンのノウハウ~

私は17歳で発症、病歴は今年で36年になります。ヘモグロビンA1Cは平均6%前半です。現在も、ほぼ合併症はないので、走ることを中心にスポーツを楽しんでいます。これまで、マラソン大会には、フル(42.195キロ)・25回、ハーフマラソン(21.0975キロ)・106回、30キロ・8回、20キロ・13回、15キロ・10回、10キロ・9回走り、一度も制限時間にかかることなく完走しました。

タイムは、現在はフルで5時間・ハーフで2時間という市民マラソンランナーとしては、遅いほうです。以前は、フルで4時間を切り、ハーフでも1時間40分を切る記録も出しましたが、今は故障することなく、長く走りを楽しむことを第一に考えています。

一日4回のインスリン注射を欠かせない私が、何故、長い間、事故もなくスポーツを楽しむことができたのか。2009年4月19日に開催された「かすみがうらマラソン」の参加報告や、私が運動するにあたって注意していることについて書きます。

かすみがうらマラソンは全国盲人マラソン大会も兼ねた大会なので、視覚障害者のランナーも多く参加します。今年、エントリー数過去最高で、フル・14,391人、10マイル・6,496人、5キロ・1,711人、盲人の部・165人、ウオーキング(19キロ)・393人でした。視覚障害者のランナーには伴走者が付き、二人は手首を紐で結んで走ります。

私自身、8回目の参加になりますが、沿道の応援も多く・サポート体制も良好で・景色も良いことから、好きな大会ベスト3のうちの一つです。出展コーナーには盲導犬が何匹もいて、盲導犬育成支援の活動も精力的で、大会には毎年、首にゼッケンを付けて42.195キロを完走する犬のカイちゃんもいました。

さて、私たち1型糖尿病患者がスポーツをする場合、低血糖が一番気がかりです。逆に言えば、合併症の問題がなければ、低血糖対策をきちんと行なっていれば、たいていのスポーツを普通の人と同じように楽しむことができます。

では、私は、どのようにして低血糖対策を行なうのか?

一般的には、前の晩の超持続型インスリン量を減らし、走る当日朝の超速効型インスリン量も減らし、できるだけ血糖測定を繰り返し、補食用食品を携帯し随時摂取する、ということです。

ウエストポーチにはパワージェル(41g・120kcal、68g・170kcalなど)を忘れずに入れます。もしもの場合のメディカルIDとして、世界標準の救急医療シンボルマークの付いたネックレスやリストバンドなども身につけます。

 しかし、人間の身体は個体差が大きく、同じ人間でも運動内容・食べたものの種類・天候・体調等々、様々な条件でかなり違ってくるので、減らすインスリン量が半分なのか、3分の2なのか、どのくらい何を補食するか、いつでも判断に迷います。

そこで大切なことは、大会当日だけでなく、普段の練習時から、インスリン・運動・食事のデータを集積し記録しておくことです。

分厚い大学ノートの『ランニング・ノート』は現在4冊目で、そこには、インスリン量から食事内容はもちろんのこと、1周2キロのランニング・コースを1周走るごとに測定した血糖値(20周した場合には20回測定)、運動しながら補食した内容とその後の血糖値など、自分の身体を自分で研究してきたデータが満載です。

表紙ノート
(写真は3冊目の表紙と青梅マラソンのデータです)

練習時だけでなく、フルマラソンの大会でも測定器を持参して、5キロごとに測定したこともありました。

 このように準備と訓練を積むと、これからする運動と食べた食事の内容を考えて、自分の正しいインスリン量を決めることができるようになってきます。

 自分で自分のデータ収集に努めても、それでもわからないことや疑問がある場合には、毎月1回の診察時、主治医に相談します。主治医は、超速効を減らすよりも前の晩の超持続を減らすほうがよいと思いますよ、などと専門家としての貴重なアドバイスをくれます。 

 

 かすみがうらマラソン当日は4時40分起床、スパゲティ大盛りを食べてカステラも2切れ食べました。完走後の食事用等として、オニギリも作成。6時半に家を出て8時土浦駅に到着。着替えてから、血糖測定を繰り返し(85!)、補食としてオニギリ1個とカステラを4切れも食べました(スタート直前285)。

 10時のスタート前、TDJの青いTシャツを着ていたため、大阪の井田先生にお目にかかり、走っている途中では東京の看護師さんから話しかけられました。

  

 (写真 かすみがうらマラソン)

 5時間のペース・ランナーに離されないように、何とか付いて走り、結局、4時間46分でゴール。直後の血糖値は175でした(走る前にカステラ4個も食べたのと、エイドでバナナを取りすぎました)。いつもは、スタート前は250から300くらいで、ゴール直後は100前後が多いです。

『ランニング・ノート』には、病気関連だけのことではなく、大会の特徴、エイドの内容(給水のほか、バナナやチョコなどがあるのかないのか)、仮設トイレの数、行くまでの交通事情、完走後に行った飲み屋や銭湯など、来年のために役立つ情報を全部書いておきます。

 “どこでも測る(血糖値)・どこでも打つ(インスリン)”

これを実践することがコントロールの要諦だと思います。ちょっと低いかなと思ったら、すぐに測ること、そしてすばやく補食をすること。これで重篤な低血糖はかなり避けられると思います。

旅行に行ったり、ハイキングに行ったり、宴会に参加したり、普段の生活とは違う場合には、こうしたことが特に必要になります。コントロールが乱れるかもしれないからといって、楽しいイベントに消極的になったら、人生つまらなくなってしまいます。完治しない病気とうまく付き合うには、物事を柔軟に考えることが必要です。

マラソン大会では救急車のサイレンの音が鳴り響くこともあります。健康な人にとっても、マラソンはリスクのあるスポーツだからです。しかし、リスクのない人生などあるでしょうか? リスクを避けるのが賢明な生き方ではなく、リスクをどのように軽減し対応するか、そのための十分な準備をすることが大切だと、私は思います。

そのための準備と訓練は、日常生活においても安定した良好なコントロールを維持することに大変有益なノウハウを教えてくれます。

毎日の生活では、各人の生活パターンに合った「血糖値等自己測定表」(写真参照、1マス2段で上段に時刻・下段に血糖値を記載)を自分で工夫して作成し(夜勤が多いのか等々、職種で生活パターンは違うので)、測定時間と血糖値等々を記載すると、格段にA1Cは向上すると思います。

充分な準備と研究を面白がって楽しむこと。私は几帳面でも真面目な性格でもなく、謙遜からではなく本当に、努力も我慢することも苦手な人間です。ただ、前向きで明るく日々ありたいと思っています。それは、気分良く汗を流し、美味いビールを仲間たちと飲むことが大好きなので、それを継続していくために、少しだけ工夫をしてきたということです。

インスリン注射をすることで人生の可能性が奪われてしまうことはない(No Limit)というTDJの精神を私は今後も実践していきたいと思います。


Y・T

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