日本糖尿病協会

月刊誌「さかえ」

月刊糖尿病ライフ さかえ

Last Update:2008年1月1日

さかえバックナンバー 2008年01月号 【 情報×眼力 】

玉石混交の情報社会

先日、わたしのクリニツクに30歳代の男性がやってきました。 2、3力月前からよくのどがかわいて尿の回数が多いうえに、からだが疲れやすく体重が減ってきたため、 インターネットで自分の症状について調べた結果、糖尿病ではないかと思って受診したとのことです。 ご本人の予想はみごと的中で血糖値が800㎎/dl以上もあり、すぐにインスリンによる治療を開始しました。

インターネツトで病気について調べることは最近では珍しくありませんが、ほんのひとむかし前だったらどうしていたのでしょう。 大きな本屋さんや図書館に行って医学に関する書物を手に取り、自分の症状に当てはまるぺージを探したのでしょうか。 しかし、狙いどおりのものを見つけることは容易ではないでしょうし、ましてや現在のように自宅に居ながらにして 調べることなど想像もつかなかったことでしょう。

このようなケースを見るとわたしたちを取り巻く情報ネットワークの便利さがよく分かりますが、 その一方で情報社会が生み出す影の部分があることも忘れてはなりません。 便利な情報が数多くいつでも手が届くところに用意されているということはすばらしいこと ですが、情報が豊富であるということは、粗悪な情報も含んだ玉石混交状態であることの裏返しと心 してください。さらにいえぼ、もしかしたら誰かが他人の行動をコントロールしようとして、ゆがん だ情報をわざと手の届きやすいところに置いているかもしれないの です。「そんな大げさな」と思われるかもしれませんが、この原稿を練っている最中にも連日、イン ターネットに関連した暗い事件の二ユースが報道されています。犯罪が絡むようなものは論外ですが、 実は普段われわれが何気なく接している一見“合法的”な情報のなかにも多くの落とし穴が潜んでいます。

冒頭にあげた患者さんの場合、情報を調べた結果「受診する」という結論に到達して無事に治療が 始まりましたので、一安心です。しかし検索サイトで糖尿病について調べると、「経口血糖降下薬あ ります」と題した怪しげな通販サイトまで出てきます。ページを開いてみると、「糖尿病に伴う諸症 状口のかわき、頻尿、多尿なじを素早く改善し、合併症の予防にも……」などと効能が謳(うた)われて います。万が一、この患者さんがこんなサイトに迷い込んで、書かれていることを信じて受診を 遅らせてしまったら、そう考えると背筋が寒くなりました。いうまでもなく、本物の経口血糖降下薬 を通販で買えるはずがありませんし、もしあっても買うべきではありません。

氾濫(はんらん)する情報のなかから本当に役立つものを探し出す知恵と、まがいものを見抜く眼力 を身に付けて、情報社会の荒波をうまく乗りこなそうではありませんか。


かぎもとクリニック 鍵本伸二

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