日本糖尿病協会

最新のお知らせ

「インクレチンと SU 薬の適正使用について」

Last Update:2011年9月29日

2010年 4月 7日 作成
2010年 4月19日 修正
2010年 5月17日 修正
2010年 6月11日 修正
2010年 6月26日 修正
2010年10月 1日 修正
2010年12月17日 修正
2011年 2月23日 修正
2011年 9月29日 修正

Recommendation PDF

【追記情報(2011年9月29日)】

2011年9月16日シタグリプチンはインスリンとの併用療法の効能が追加された。インスリン療法は、単独療法においても低血糖のリスクが高いため、シタグリプチンを併用する場合にも低血糖リスクに注意し、必要に応じてインスリン製剤の用量調整を考慮すること。また、インスリンにSU薬などが併用されている場合には、下記Recommendationに従い、SU薬を推奨用量まで減量の上、シタグリプチンを追加すること。
2011年9月15日発売のリナグリプチン(トラゼンタ)、2011年9月20日発売のアログリプチン/ピオグリタゾン配合錠(リオベル配合錠)はSU薬との併用は適応となっていないが、下記の点を十分考慮して使用する。

【追記情報(2011年2月23日)

GLP-1受容体作動薬に分類されるエキセナチド(2010年12月17日発売「バイエッタ」)はインスリンの代替とはならないため、インスリン治療中の患者では、患者がインスリン依存状態にあるか、非依存状態にあるかについて評価を行ったうえで本剤使用の可否を判断する(インスリン依存状態にある患者では本剤への切り替えは行われるべきではない)。
なおインスリン依存状態にあるか、非依存状態の鑑別はリラグルチドと同様である。

エキセナチドは適応がSU薬併用(ビグアナイド系薬剤又はチアゾリジン系薬剤との併用を含む)となっているため、低血糖についての注意も必要である。国内臨床試験においては、1回5μgでの投与開始時、及び1回10μgへの増量時に低血糖の発現頻度が増加する傾向が報告された。
エキセナチドは1回5μg、1日2回から開始し、1ヵ月以上経過観察を行ったうえで1回10μgへ増量することとなっている。
したがって、投与開始2週間後に受診し、専門医が低血糖等について十分に確認したうえで、エキセナチドを増量すべきである。
最大量に達してからも暫くの間は、慎重な観察が必要である。導入時には可能な限り血糖自己測定が推奨される。
なお、エキセナチドは透析患者を含む重度腎機能障害のある患者では禁忌となっている。
軽度、中等度の腎機能障害のある患者においても臨床試験の結果から低血糖の発現割合が高い傾向が報告されることから慎重に投与する必要がある。

【重要】

2010年6月11日~2010年10月7日の間にGLP-1受容体作動薬であるリラグルチド(ビクトーザ)投与症例全体で、糖尿病性ケトアシドーシスが4例(うち死亡2例)、高血糖16例が発現していたことが判明した。これら20例のうち、17例がインスリン治療を中止し本剤に切り替えた後に発症したもの。
リラグルチドはインスリンの代替とはならないため、インスリン治療中の患者では、患者がインスリン依存状態にあるか、非依存状態にあるかについて評価を行ったうえで本剤使用の可否を判断する(インスリン依存状態にある患者では本剤への切り替えは行われるべきではない)。
インスリン依存状態、非依存状態の鑑別にはCペプチドの測定が有用であるが、Cペプチドは腎機能の低下により、みかけ上高値に出る場合、症例によってはグルカゴン負荷試験などによる判定を必要とするなど、鑑別が難しい場合が多く、専門医に委ねるべきと考える。

一方、国内の臨床試験ではシタグリプチンとSU薬との併用で臨床上問題となる重篤な副作用は1例もなかった。
しかし2009年12月にシタグリプチン(ジャヌビア、グラクティブ)発売後、SU薬にシタグリプチンを追加投与後に重篤な低血糖による意識障害を起こす症例報告が後を絶たない。その原因究明と対策をたてるために「インクレチンとSU薬の適正使用に関する委員会」(現:「インクレチン(GLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬)の適正使用に関する委員会」)を発足し、以下の様に検討され対策案がまとまった。
その後の症例蓄積及び解析の結果により、2010年4月7日付けRecommendationの内容を一部修正した。
尚、今後も、症例蓄積及び解析の結果を踏まえてRecommendationの追加修正を適宜行うものとする。
2010年4月16日より発売となったビルダグリプチン(エクア)についても、作用機序から同様の事象が生ずると考えられるため、同じような取り扱いが必要と思われる。また、2010年6月15日発売のアログリプチン(ネシーナ)についても、2011年2月23日にSU薬ならびにビグアナイド薬との併用の適応が認められたため、これらと同様の扱いとする。
2010年6月11日発売のリラグルチド(ビクトーザ)はGLP-1受容体作動薬であり、上記のシタグリプチン(DPP-4阻害薬)とは異なる薬剤であるが、作用機序からより強力と考えられ、SU薬併用時にはより慎重な取り扱いが必要である。

*重篤な低血糖を起こすケースには以下の特徴を認めた。

  • 高齢者
  • 軽度腎機能低下
  • SU薬の高用量内服
  • SU薬ベースで他剤併用
  • シタグリプチン内服追加後早期に低血糖が出現

<Recommendation>

  • 高齢者や軽度腎機能低下者にSU薬の使用は極めて慎重でなければならない。
    投与して効果が少ない場合、SU薬は安易に増量しない。
  • 高齢者・腎機能低下(軽度障害を含む)・心不全の患者には、現行ではビグアナイド薬の投与は禁忌である。
    (但し、2010年5月10日より発売になったメトグルコに関しては、高齢者や軽度腎機能障害患者には慎重投与となっている。この場合も2週間処方を厳守し、副作用の発現などに十分注意すること)
  • SU薬ベースで治療中の患者でシタグリプチン・ビルダグリプチン・アログリプチンを追加投与する場合、SU薬は減量が望ましい。SU薬・ビグアナイド薬の併用にシタグリプチン・アログリプチンを追加投与する場合は一層の注意を要する(ビルダグリプチンは、SU薬以外との併用は認められていない)。特に高齢者(65歳以上)、軽度腎機能低下者(Cr 1.0mg/dl以上)、あるいは両者が併存する場合、シタグリプチン・ビルダグリプチン・アログリプチン追加の際にSU薬の減量を必須とする。グリメピリド(アマリール)2mg/日を超えて使用している患者は2mg/日以下に減じる。
    グリベンクラミド(オイグルコン、ダオニール)1.25mg/日を超えて使用している患者は1.25㎎/日以下に減じる。グリクラジド(グリミクロン)40㎎/日を超えて使用している患者は40mg/日以下に減じる。シタグリプチン・ビルダグリプチン・アログリプチン併用後、血糖コントロールが不十分な場合は、必要に応じてSU薬を増量し、低血糖の発現がみられればSU薬をさらに減量する。

    もともとSU薬が上記の量以下で治療されていて、血糖コントロールが不十分な場合はそのまま投与のうえシタグリプチン・ビルダグリプチン・アログリプチンを併用し、血糖の改善がみられれば、必要に応じてSU薬を減量する。

  • GLP-1受容体作動薬、リラグルチドはDPP-4阻害薬に比し、より作用が強力である。
    臨床試験の成績においてもSU薬併用の場合、投与早期に低血糖の発現がみられている。
    リラグルチドは段階的(0.3mg→0.6mg→0.9mg)に投与量を増加するため、リラグルチドを増量する際は1週以上の間隔をおくことになっているが、SU薬併用の場合は2週間後に受診し、専門医が低血糖等について十分に確認したうえで、リラグルチドを増量すべきである。最大量に達してからも暫くの間は、慎重な観察が必要である。導入時には可能な限り血糖自己測定が推奨される。
  • SU薬を使用する場合には、常に低血糖を起こす可能性があることを念頭に置き、患者にも低血糖の教育など注意喚起が必要である。
  • 上記の点を考慮するとSU薬をベースとした治療にシタグリプチン・ビルダグリプチン・アログリプチンを併用する際、SU薬の投与量について判断し難い場合、あるいはSU薬とシタグリプチン・アログリプチンを含む3剤以上の併用療法を行おうとする場合は専門医へのコンサルトを強く推奨する。リラグルチドをSU薬と併用する場合は、導入と最大量に達してから暫くの間の観察は、当面専門医が行う。

インクレチン(GLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬)の適正使用に関する委員会
(旧「インクレチンとSU薬の適正使用に関する委員会」)

京都大学大学院医学研究科 糖尿病・栄養内科学   稲垣 暢也
神戸市立医療センター中央市民病院   岩倉 敏夫
東京女子医科大学糖尿病センター   岩本 安彦
東京大学大学院医学研究科 糖尿病・代謝内科    門脇 孝
神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科学 細胞分子医学    清野 進
関西電力病院    清野 裕

【連絡先】 
関西電力病院 院長室
電話:06-6458-5821
Fax :06-6458-8758

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