日本糖尿病協会

月刊誌「さかえ」

月刊糖尿病ライフ さかえ

Last Update:2008年3月1日

さかえバックナンバー 2008年03月号 【 情報×眼力 】

似非(えせ)科学の手口

似非科学を見抜く眼力を養うためには、その手口をよく知ることも必要です。敵(?)の最終目標は商品を売る、視聴率を上げるなどですが、まず第一歩は信じ込ませて広めることです。そのためには矛盾するようですが、「一見信じ難いこと」の方が効果的でしょう。人が誰でも持っている「楽をして得をしたい」という心理に付け込み易いうえに、話題になりやすいからです。

昨年は、納豆ダイエットに関するテレビ番組の捏造問題が問題になりましたね。「痩せるためには努力が必要である」ということは常識です。そこで「毎日納豆を食べるだけで楽をして痩せることができる」という、今までの常識を破った画期的な方法が現れると、「本当ならいいな」と信じたい気持ちが生まれますし、他人に話したくもなります。信じたい気持ちになって続きを見てしまうと、既にむこうの思うツボ。番組は、(1)米国の大学教授の研究から「DHEA」と呼ばれるホルモンにダイエット効果がある、(2)納豆などに含まれるイソフラボンがその原料になる、(3)したがって納豆にはダイエット効果がある、という3段論法で展開しました。さらに、(4)被験者に朝晩2回納豆を食べ続けさせた結果、2週間で全員の体重が減ったというオリジナルデータつきです。

権威のある話を引用し、科学用語(DHEA、イソフラボン)を用いて論旨を展開し、結論を導き出す手法は一見科学的に見えます。しかし、(1)で引用された米国大学教授の研究は納豆やイソフラボンとは無関係で、「DHEAが減少した高齢者においてDHEAを補充すると、内臓脂肪を減少させる可能性がある」というものです。(2)の根拠となった論文は「大豆抽出物がイソフラボンの含有量に関係なく性ホルモンにわずかな影響を与える」という内容で、イソフラボンでDHEAが増えるという内容ではありません。したがって、納豆でイソフラボンが摂れることをいくら強調しても、(3)の納豆にダイエット効果があるという結論を導くことはできないのです。都合のいい話だけを曲解を交えてつなぎ合わせるやり方はまさしく似非科学の手口ですが、実際に痩せたとする(4)のデータについては実験そのものがデタラメだったのですから、もはや言葉もありません。他の科学者による批判的な検証を経ていないデータは、もとから信頼に値しないというしかないでしょう。

さて、そもそも「○○を食べるだけで簡単に痩せる」といううまい話なんて、ほんとうにあるのでしょうか。冷静に考えると「本当かな?」と疑問がわくはずです。世の中にうまい話はない、そういうあたりまえのことに立ち返って疑ってみることが、似非科学を見抜く眼力の基本といえそうですね。


かぎもとクリニック 鍵本伸二

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