「さかえ」編集委員長
群馬大学医学部保健学科教授
伴野 一
第19回国際糖尿病連合(IDF) 会議が南アフリカのケープタウン で2006年12月3-7日に開催 されました。 現地に赴いた感想と、世界の糖尿病事情につ いてご報告します。
ご存じのとおり、IDFは日本 糖尿病協会(以下、日糖協)ができ るきっかけになったものです。そ れまでは、日本にも医師を中心と した糖尿病学会はあったのですが、 IDFに加入するためには、患者 さんも加わった組織が必要との指 摘を受け、日糖協が組織されまし た(「さかえ」2007年1月号を ご参照ください)。
写真1 IDF会議開催地のケープタウン
IDF会議は3年おきに世界各 国を巡って開催されます。日本で も1994年に神戸で開催されま した。阪神・淡路大震災の前年に あたり、印象深く残っております。 IDF会議には日糖協として毎回 参加してきましたが、近年は観光 を兼ねたツアー旅行も企画される ようになりました。今回は、南ア フリカ・ジンバブエ・ボツワナと、 アフリカ南部を巡るツアーが企画 され、十数人の方が参加されました。
わたしも「ぜひ『さかえ』に掲 載する写真を撮りに行かなけれ ば!」と張りきっておりましたが、 日本人の観光スポットからは外れ ているため、情報が少なく、数少 ない観光案内書には、治安やマラ リアなど気になる事項が掲載され ており、出発が近づくにつれ不安 になってきました。しかし「3年 後にはサッカーのワールドカップ の開かれるところでもあり、そん な物騒なことはないだろう」と腹 を決め、出かけました。
写真2 各国ブース。それぞれのお国柄を表すポスターや活動を紹介する パンフレットが参加した人たちの目を引いていました。
ケープタウンまでのコースは、 ヨーロッパ回りと香港経由の2つ あるようですが、わたしたち(「さ かえ」担当理事の河津捷二先生 と2人旅)は後者のコースをとり ました。成田から香港まで5時間、 香港からヨハネスブルクまで13時 間、ここで入国手続きをして、ケ ープタウンまでまた飛行機で2時 間、乗り換え時間を入れると25時 間もかかりました。ヨハネスブル クの空港は、ワールドカップに向 けて大拡張工事中でした。

写真3(上) 日糖協のブース前。左から、伴野一「さかえ」編集委員長、 日糖協事務局の堀田裕子さん、日糖協国際委員長の伊藤千賀子 先生、ボランティアの御園生靖子さん。 写真4(下左)日糖協のパンフレット 写真5(下右)「食品交換表」の英語版。
会場はケープタウンコンベン ションセンター。参加者は1万 3000人で、前回のパリよりも 多かったとのこと。しかし、日本 からの参加者は100人に満たず、 パリでの700人余りに比べ、は るかに少なかったとのことでした。
会場には、4平方メートルほど の大きさの世界各国の協会ブース がアジア、アフリカ、ヨーロッパ などの地域別に並び、それぞれの お国柄を表すポスターや協会活動 を紹介する展示や資料が置かれて いました(写真2)。
日糖協では、協会活動を紹介し たポスターの展示と、日糖協紹介の パンフレット1000部、英語版の 食品交換表250冊を用意しました (写真3、 12 ページ写真4、5)。
特に食品交換表は、ほかの国で はこのような立派なものはないら しく、非常に興味をもたれ、あっ という間になくなってしまいまし た。なくなってからも、問い合わ せが相次ぎ、送ってほしいと名刺 を置いていかれる方もおられまし た。われわれは当たり前のような 気がしていますが、日本の「食品 交換表」に誇りをもって、もっと 活用すべきだと改めて感じました。
各国の展示で目立ったのは、足 の壊疽(えそ)についてのパンフレ ットが多いことでした。全世界で、 30秒 に 1 本 の 足 が 壊 疽 の た め 切 断 されているという論文を改めて思 い出しました。
学術発表会においては、肥満 と糖尿病の増加がやはりいち ばんの問題になっていたよう に思います。メタボリックシン ドロームもこのような流れのな かで世界的に議論されていまし た。世界の糖尿病人口は2025 年には3億2400万人となり、 2003年より72%も増加するこ とが予想され、特にアジア、中東、 アフリカ、南アメリカでは2倍に もなるとのことでした(図1)。
図1 2003年(上段)、2025年(中段)における推定糖尿病患者数とその増加率(下段)
この会議の総意をふまえ、国連 で「糖尿病の脅威を認知する決 議」がなされたことは、「さかえ」2007年3月号に 緊急レポートとしてお知らせいた しました。
治療薬については、特に目新し いものはなかったかと思います が、まだ、日本では使われていな い吸入式インスリンや腸管ホルモ ン(GLP―1)関連の血糖降下治 療薬などが話題になっていました。 メーカーの展示場では、簡易血糖 測定器の展示が多くみられました が、前回まであった簡易の非観血 的血糖測定装置(針を刺さないで =血を出さなくて=血糖値を測る 器械)の展示がありませんでした。 血を採らないで簡単に血糖測定す るのは、やはりまだむずしいよう です。
IDF会議終了後の1日を観光 にあてました。ケープタウンは、 ヨーロッパの街並みのようで、き れいな街でした。露天ではお面 首飾り、ダチョウの卵など、お土 産用の民芸品がたくさん売られて おり、興味津々でした。ただ気に なったのは、まだ明るい午後の4 時には露天が店じまいとなったこ とです。 「夜は出歩かないように」 という注意が頭をかすめました。 10ペ ー ジ の 写 真 1 は ウ オ ー タ ー フ ロントからみた風景です。街外れ から海抜1085メートルのテー ブルマウンテンが垂直にそびえ立 っています。ケープタウンの象徴 です。ロープウエーで登ることが できます。また、アフリカ最南端 の喜望峰までのバスの観光コース はほぼ1日がかりでした。
今回のIDF会議でいちばん感 じたことは「どうして人間はこ んなに太らなければいけないの か?」ということでした。経済の 発展とともに肥満・糖尿病が増え、 何か人間が地球を食い尽くしつつ あるような気がしました。国連決 議を重く受け止める必要があると 切に思います。
次回は2010年1 0月1 8?2 2日、 カナダのモントリオールでの開催 です。

「さかえ」副編集委員長
東京女子医科大学
糖尿病センター
内潟 安子
「さかえ」2007年3月号に清野裕・日本 糖尿病協会理事長からのすばらしいメッセージがありました。「糖 尿病の脅威を認知する決議」が 2006年12月20日の国連 (United Nations)総会で採択され たのです。
世界各国の糖尿病協会の上部組 織に当たる国際糖尿病連合(ID F)が2006年の6月から「Unite for Diabetes(糖尿病に対して団結し よう)」というキャンペーンを開 始しました。もう待ったなしの糖 尿病人口の爆発的増加、世界中の 糖尿病関連の死亡者が1 0秒に1人 という現状を受けて、シリンク教 授(このときは次期IDF会長、 06年12月からは正会長)を中心に 立ち上げられたものです。
糖尿病に関連した人や団体、関 連企業、それから各国の政府、す べてに糖尿病に団結して立ち向か うことが必要なのだということを 認識してもらい、そして行動して もらうことを目的にしています。 ( 15 ページ図2はIDFのUnite for Diabetes キャンペーンのロゴ マークです。シリンク次期会長は 明るいブルーの色に糖尿病患者さ んの明るい明日を込めたと話され ました。ピンバッチも06年のアメ リカ糖尿病学会前後から登場しま した)。
写真6 IDF会議会場の全景
そのうちの最も大きな目標が国 連決議(UN resolution)でした。 これは議長声明などより重みのあ るもので、強い力で各国の政府に 対して糖尿病の予防や治療に精力 的にあたってほしいと求めるもの です。そして、07年の今年から、 これまで「世界糖尿病デー」とI DF以下各国の糖尿病協会で認識 していた11月14日が国連公認の 「世界糖尿病デー」として記念日 になります。ちなみに11月14日は インスリン発見でノーベル医学賞 を受賞したバンティング博士の誕 生日です。国連が公式に定めた記 念日にはいろいろな分野のものが あるのですが、健康や保健にかか わるものはこれまでに4つしかあ りません。
各国の政府、団体などに糖尿病 に対してこのようにしてほしいと 求めるガイドライン(IDF憲章) 作成ももう一つの目的で、昨年6月から開始されました。5つの重 点対象グループ(小児ヤング糖尿 病、高齢者糖尿病、糖尿病と先住 民、糖尿病と移民、そして糖尿病 と妊娠)を特定化し、それぞれの グループの問題を洗い出し、各国 の健康に関係する行政部署や医療 従事者、またそれぞれの属する団 体に、今後の糖尿病対策として、 どのような短期および長期糖尿病 対策プランを立てていただきたい か、どのようなプランが効果的で あるのか、これを提示するわけで す。
図2 unite for diabetesのロゴ
糖尿病と妊娠のワーキングメン バーとして大森安恵・東京女子医 科大学糖尿病センター前センター 長(同大学名誉教授)が、小児ヤン グ糖尿病のメンバーとして内潟が、 いろいろな国際学会の機会を利用 して、全員手弁当で行っています。 06年12月にケープタウンで開催さ れたIDF会議でも、6人のワー キングメンバーが集まり、さらに 作業を続けました。
実は、今回のIDF会議以前に は、国連決議がうまく可決される かどうか危ぶまれていて、会議に 出席すると「07年の11月までに は!」という声がよく聞かれまし た。今回、発展途上国でつくる 「77カ国グループ(G77)」が支援 を表明し、決議が一気に実現した のです。 なお大森安恵先生は2月28日、 国連(米国・ニューヨーク)におい て糖尿病と妊娠?に関するスピー チをされ、本キャンペーンに重要 な役割を果たされました。